「この手で、あと何年?」親指を頑張らせない、もう一つの施術の考え方

「この手で、あと何年施術を続けられるだろう」
長年、お客様の身体に触れている施術者なら、一度くらい考えたことがあるかもしれません。
硬くなった筋肉をほぐす。しっかり圧をかける。何度も繰り返す。
お客様のために一生懸命になればなるほど、自分の指や腕に負担がかかってしまう。
では、もっと強い力を出せるようになるしかないのでしょうか。
私は、そうは思っていません。
私が行っている身体調整は、筋肉を直接ほぐすことを目的にしていないからです。
筋肉を揉まないで、何をしているのか
私が施術で意識しているのは、靱帯や腱、腱膜、そしてファシアなどの結合組織です。
「靱帯や腱膜を施術する?」
そう聞くと、何か特殊な手技を想像するかもしれません。
ところが、実際の私の手の動きは、とても小さなものです。
強く押したり、揉み込んだりはしません。ごく弱いマニピュレーションを行います。
ただし、何となく優しく触れているわけでもありません。
私の頭の中では、施術中ずっと別の作業が進んでいます。
それは、解剖図を思い浮かべることです。
解剖図が、頭の中で立体になる
私は施術を考えるとき、解剖学の図をよく使います。
靱帯なら、どの骨からどの骨へつながっているのか。
腱膜なら、どのような広がり方をしているのか。
図に書かれた名前と、その組織の形や位置関係を、頭の中で結びつけていきます。
単に名称を暗記するのとは少し違います。
平面的な図を、自分の頭の中で立体的な身体として思い描くのです。
私はこれを「右脳でイメージする」という感覚で捉えています。
そのイメージを持ちながら、非常に弱く手を動かします。
すると、指先には私なりの手応えが伝わってきます。
何かが動くような感覚。組織の張りが変わるように感じられる瞬間。
私は、そうした微細な感覚を探りながら施術しています。
もちろん、指先の感覚だけで、特定の靱帯や腱膜が実際に動いたと証明できるわけではありません。
それでも、この「解剖図のイメージ」と「手の感覚」を結びつけることは、私が長く探究してきた技術の中心にあります。
コリが残っていても、楽になることがある
ここも、私が施術で面白いと感じているところです。
たとえば、肩のコリ。
施術が終わったとき、触ってみると、まだ硬さが残っていることがあります。
でも、コリを完全に柔らかくすることだけが目的なのでしょうか。
受けた方が以前より楽に感じたり、動かしやすくなったりする。
美容施術なら、姿勢や身体のラインの印象が変わったと感じられる。
そうした変化も、私にとっては大切です。
つまり、筋肉の硬さを取り除くことと、施術で目指すゴールは、必ずしも同じではありません。
何を目的に施術するのか。
そのために、どの組織を意識し、どんな手段を選ぶのか。
私は、この二つを分けて考えています。
私の施術を受けた方からは、変化の持ちが比較的よいという感想をいただくこともあります。
ただ、それが誰にでも同じように続くという意味ではありません。私自身、さらに確かめたいことがある部分です。
今のエステ技術を捨てる必要はありません
ここで、エステティシャンの方に一つお伝えしたいことがあります。
新しい技術に興味を持ったからといって、今までの施術を全部変える必要はない、ということです。
長年磨いてきた手技がある。
その施術を気に入って、通ってくださるお客様がいる。
それを突然やめて、まったく別の方法に切り替えることが、本当に必要なのでしょうか。
私は、今までの技術はそのまま生かしてよいと思っています。
たとえば、今までどおりのフェイシャル施術をする。
ただ、その施術で何を目指しているのかを、もう一度考えてみる。
フェイスラインを整えたいのか。肩の印象を変えたいのか。身体を楽にしたいのか。
目的が決まれば、そこから身体のどの構造を意識するか、という考え方が生まれます。
私が伝えたい技術は、今の手技を否定するものではありません。
むしろ、今まで使ってきた手に、別の見方を一つ加えてみる。
そんな取り入れ方もできるのではないかと思っています。
私だけにしかできない技術なのか
「それは、長年施術してきた人だからできるのでは?」
そう思われるかもしれません。
私自身、誰でも同じようにできると断言するつもりはありません。
ただ、私のスタッフも、この考え方を取り入れて施術しています。
私から学んだ生徒さんの中にも、実際に使えるようになった方がいます。
もちろん、練習は必要です。
解剖図を見て、組織を頭の中に立体的に描き、弱い手の動きと感覚を結びつけていく。
一度説明を聞いただけで、すべてが身につくものではありません。
私自身は、そこにエネルギーに関する独自の考え方も取り入れています。
ただ、この部分は文章で説明すればすべて伝わる、というものでもない気がしています。
まず、受けてみたら何を感じるだろう
親指で強く押される施術と、ほとんど力を感じないような施術。

その違いを、言葉だけでどこまで伝えられるでしょうか。
私の手が何を感じ取っているのか。頭の中でどんな構造を思い描いているのか。
それを全部説明するより、まず施術を受ける側になってみる方が、分かることもあるのではないかと思っています。
今までの施術をやめる必要はありません。
けれど、もし今までとは違う手の使い方があるとしたら。
そして、その小さな違いが、施術者としてのこれからを考えるきっかけになるとしたら。
私が長年探究してきた、この弱いマニピュレーションを、施術者の方はどう感じるのでしょうか。
実は、私もその反応に興味があります。
※本文は筆者の施術経験と考え方を紹介するものです。特定組織の変化、痛みの改善、美容効果や効果の持続を保証するものではありません。
神谷 昌志
カミヤ治療院の院長。「あなたが回復すれば、あなたの周りも元気になる。」をモットーに、心身に悩みを抱える多くの人たちの回復をサポートしている。
整形外科 理学療法室勤務
平成7年 東京医療福祉専門学校卒業「鍼灸・マッサージ師免許」取得
平成18年より 江戸川区西葛西に「カミヤ治療院」2名で開業

