ベッドでは揃っていた顔が、起き上がると元に戻る。なぜ?

フェイシャルの最後に起こる、ちょっと困った出来事
「よし、いい感じに整った」
施術が終わって、お客様の顔を見る。
左右の眉の高さや、頬の位置が、施術前よりも揃ったように見える。
施術者としては、少しうれしい瞬間です。
ところが、お客様がベッドから起き上がり、鏡を手にした途端……。
「あれ? さっきと違う」
寝ているときは揃って見えたのに、座ってみると、また左右の高さが違って見える。
こんな経験はないでしょうか。
私は実際の施術でも、こうした場面を何度も経験してきました。
施術した本人としては、少しヒヤッとします。
あれだけ丁寧に施術したのに、どうしてだろう。
さっきまでの変化は何だったのだろう。
この疑問は、フェイシャルを行う施術者にとって、決して他人事ではないと思います。
寝ている顔と、起きている顔は同じではない
考えてみれば、仰向けに寝ているときと、起き上がったときでは、身体の状態がずいぶん違います。
寝ているときは、頭がベッドに支えられています。
しかし、起き上がると、今度は首や身体で頭を支えなければなりません。
頭の向きも、顎の位置も、目線も変わります。
さらに、顔に当たる光の方向まで違うことがあります。
だから、寝ているときに左右が揃ったように見えても、その印象が座ったときにそのまま続くとは限らないのです。
もちろん、左右差が戻って見える理由を、姿勢だけで説明することはできません。
もともとの骨格や表情のクセなども関係するでしょう。
でも、ここで私は考えます。
顔だけを見ていて、何か見落としていることはないだろうか。
実は、頭と首の境目にも注目しています
私たちの頭は、首の骨の上に乗っています。
首には小さな骨がいくつも重なっていますが、その一番上にある骨を「環椎(かんつい)」と呼びます。
難しい名前ですが、首の一番上の骨、ということです。
その環椎と、頭の後ろ側の骨がつながる場所を想像してみてください。
ちょうど後頭部の下、首との境目あたりです。
ここには、関節や靱帯、いくつもの膜などが集まっています。
その一つが「環椎後頭膜(かんついこうとうまく)」です。
名前は少し難しいですが、覚えていただきたいのは位置だけです。
頭と首が出会う、一番上のつなぎ目にある膜。
まずは、そんなふうに思い浮かべていただければ十分です。
この周辺は非常に複雑な構造をしています。
私が施術で大切にしているのは、その奥にある組織を、できるだけ立体的にイメージすることです。
顔ではなく、頭の付け根を思い描く
例えば、眉の高さが左右で違って見えるとします。
普通なら、眉の周りや額の筋肉に目が向くかもしれません。
でも私は、顔だけでなく、頭を支えている首の付け根にも興味を持ちます。
後頭部の骨。
首の一番上の骨。
そして、その間にある薄い膜。
こうした構造を頭の中で描きながら、身体へのごく弱い接触の中で、指先に伝わる感覚を観察していきます。
特に「環椎後頭膜」という組織を意識することもあります。
ただし、その膜が顔の左右差を作っているとか、膜への施術だけで左右差が整うと確認されているわけではありません。
私は、解剖学的な構造を立体的に思い描くことを、施術者としての大切な着眼点にしています。
強く押したり、首を無理にひねったりする必要はありません。
むしろ、そうした強い刺激を避けることを心がけています。
身体が身構えない程度の接触の中で、指先の小さな感触に注意を向ける。
その違いを感じ取ろうとすることが、私の施術の特徴の一つです。
最後は、やっぱり鏡の前で
ここで、もう一度、最初の場面に戻ってみましょう。
ベッドでは揃っていたはずなのに、起き上がると違って見える。
私は、こうした経験があるからこそ、施術後の確認を大切にしています。
寝ているときだけでなく、起き上がってもらう。
必要に応じて立った状態でも確認する。
そして、お客様自身に鏡を見ていただきます。
「右と左で、どう見えますか?」
施術者だけが判断するのではなく、お客様の感じ方も聞いてみるのです。
私の施術では、片側だけに働きかけ、反対側との違いを比べることもあります。
ただし、顔の左右差は、照明や顎の向き、表情によっても変わって見えます。
ですから、比較するときには、できるだけ同じ姿勢や明るさで確認することが大切です。
鏡の中で少し違って見えたからといって、それだけで骨や靱帯が変化したと判断することはできません。
施術の結果は、ベッドの上だけでは分からない
私は、施術中に指先で感じる微妙な変化を大切にしています。
しかし、その感覚だけで結果を決めるのではなく、お客様が普段の姿勢に戻ったときにどう感じるのかも確かめたいのです。
施術者として「うまくいった」と思った瞬間と、お客様が「良くなった」と感じる瞬間は、必ずしも同じではありません。
だからこそ、ベッドから起き上がった後の確認は大切です。
そして、もし思ったような変化が見られなかったとしても、そこで終わりではありません。
どこを観察していたのか。
何を見落としていたのか。
身体のどんな構造を意識して施術していたのか。
そうしたことを考え直す機会になります。
顔の左右差が気になったら、顔だけでなく、頭と首のつなぎ目にも目を向けてみる。
それがすぐに答えになるとは限りません。
けれど、身体を部分ごとに切り離さず、立体的につながったものとして見ることは、施術者にとって新しい発見につながると思っています。
あの、鏡を見た瞬間の「ヒヤッ」とする経験。
私は、そんな経験も、施術を学び続けるうえでは大切なのかもしれないと感じています。
※本記事は筆者の施術経験と独自の身体観察法を紹介するものです。環椎後頭膜などへの微細な接触によって顔の左右差が改善するという効果を保証するものではありません。
神谷 昌志
カミヤ治療院の院長。「あなたが回復すれば、あなたの周りも元気になる。」をモットーに、心身に悩みを抱える多くの人たちの回復をサポートしている。
整形外科 理学療法室勤務
平成7年 東京医療福祉専門学校卒業「鍼灸・マッサージ師免許」取得
平成18年より 江戸川区西葛西に「カミヤ治療院」2名で開業

