「上がってます」――私の手が先に感じていたこと

片側だけ施術したあと、受けた方に左右の違いを確かめてもらいました。
「上がってます」
ヒップラインについて、そう言われたのです。
実は、その言葉を聞く前から、私の手にはある感覚が伝わっていました。
何かが締まっていくような感覚。
内側から持ち上がってくるような感覚。
そして、手に返ってくる抵抗が変わっていく感覚。
私には確かな手応えがありました。
そこで、施術を受けた方自身にも確認してもらったのです。
ただし、手応えはあくまで私自身の感覚です。実際に組織がどのように変化したのかを測定したわけではありません。
それでも、この体験は、私が美容への応用を考えるうえで興味深いものでした。
なぜなら、私が意識していたのは、お尻の筋肉ではなかったからです。
骨盤の、いちばん底でした。
もともと美容のために生まれた技術ではない
少し話をさかのぼります。
私は以前、ある施術技術の勉強会で講師を務めていました。
そこには、骨盤の底に着目する技術がすでに完成した形で存在していました。
骨盤臓器の下垂、血行不良、女性特有の疾患、特に産後の不調。
こうした女性の身体の問題を考えるとき、骨盤の底にある構造は無視できません。
しかし、私が考えたのは、その技術をもっと幅広い目的に応用できないだろうか、ということでした。
身体を支える構造への着眼点を、美容の施術にも生かせるのではないか。
その可能性を探る中で、ヒップラインにも応用するようになりました。
最初からヒップアップを狙って作られた技術ではないのです。
手で触れる場所と、意識する場所が違う
骨盤の底には、ハンモックのように広がる支持構造があります。
一般的な解剖学では「骨盤隔膜」と呼ばれ、筋肉と筋膜などから構成されています。
私が施術中に意識するときには、「骨盤底隔膜」という名称を使っています。

ここで、私の施術には少し変わったところがあります。
この構造を意識していても、必ずしもそこへ直接手を入れるわけではありません。
私は男性の施術者ですから、デリケートな場所への接触には特に慎重になります。
実際には、周辺のツボなどからアプローチすることもあります。
使う刺激はごく弱いものです。
筋肉を強く揉みほぐすのではなく、頭の中で骨盤の底の構造を立体的に描きながら、小さなマニピュレーションを行います。
そのとき、意識している組織の名前を小声で囁くこともあります。
「骨盤底隔膜」
私が学び、探究してきた言霊やエネルギーの考え方も、この施術には関わっています。
外から見れば、ほとんど何をしているのか分からないかもしれません。
しかし私自身は、立体的に思い描いている構造と、手に返ってくる微細な感覚を確かめながら施術しています。
そして、冒頭でお話ししたような手応えを感じることがあるのです。
なぜ片側だけ施術するのか
美容に応用するとき、私が大切にしているのは、最初から両側を同じように施術してしまわないことです。
まず片側だけを調整する。
そのあとで、施術した側と反対側を比べてもらいます。
触ったときの感覚はどうか。
立ったときのヒップラインの印象はどうか。
私は普段、必要に応じて鏡でも左右を確認します。
施術者である私の手応えと、受けた方自身の感覚。その両方を確かめたいのです。
「上がってます」と言われた体験も、そうした確認の中から生まれました。
もちろん、それだけで骨盤隔膜そのものが持ち上がったと証明できるわけではありません。
けれども、自分の手で感じたことを、相手の感覚と照らし合わせる。
この過程に、私は施術の面白さを感じています。
ヒップラインを見るとき、お尻だけを見る必要があるのか
エステティシャンの方なら、ヒップラインを整えたいというお客様の希望に接することもあるでしょう。
そのとき、お尻の筋肉や表面のラインに注目するのは自然なことだと思います。
でも私は、もう一つの見方を知っていただきたいのです。
手を当てている場所とは別の構造を、頭の中で意識する。
ごく弱い刺激でも、自分の手に返ってくる感覚を注意深く観察する。
そして片側だけの施術で、受けた方が何を感じるか確かめる。
私が美容に応用しているのは、単なるヒップアップの手順ではありません。
もともと別の目的で学んだ技術から、身体を見る新しい視点を探してきた、その過程でもあります。
私の手が感じた、あの締まって持ち上がるような感覚。
そして受けた方の「上がってます」という言葉。
この二つの間で、実際には何が起きているのか。
私自身、今も臨床の中で確かめ続けています。
施術者の方にも、まずはその手応えと、受けたときの感覚を体験していただきたいと思っています。
※本文は筆者の臨床体験と施術上の考え方を紹介したものです。骨盤隔膜への直接的な作用、産後の不調への治療効果、客観的なヒップアップ効果や再現性を実証するものではありません。
神谷 昌志
カミヤ治療院の院長。「あなたが回復すれば、あなたの周りも元気になる。」をモットーに、心身に悩みを抱える多くの人たちの回復をサポートしている。
整形外科 理学療法室勤務
平成7年 東京医療福祉専門学校卒業「鍼灸・マッサージ師免許」取得
平成18年より 江戸川区西葛西に「カミヤ治療院」2名で開業

